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映画「Love Letter」の30年を経た今も色あせない普遍性と、一人二役を演じた中山美穂の“美しさ”に心奪われる

「Love Letter 4Kリマスター」ただただ、中山美穂が美しいーー。この一言に尽きるのではないだろうか。雪のように純白で綺麗だ、青春の名残がある儚さがあってかわいい…、いくらでも形容する言葉は並べられるが、どれもしっくりこない。映画「Love Letter」の中山美穂は、もっと静かで、ただ純粋に美しいのである。 【写真】真っ赤なセーターと雪山のコントラストが、博子(中山美穂)の美しさを際立たせる 映画「Love Letter」は、岩井俊二監督の劇場用長編映画第1作で、1通の手紙からよみがえる2つの恋物語を描く。兵庫・神戸に住む渡辺博子(中山)は、2年前に山の遭難事故でフィアンセ・藤井樹を失っていた。偶然、樹が昔、北海道・小樽に住んでいたことを知った博子は、悲しみを癒やすために1通の手紙をかつて彼が住んでいたという住所宛に出す。すると数日後、来るはずもない返事が博子の元へ届いた。やがて博子は、差出人の藤井樹がフィアンセと同姓同名の女性だと知るーー。 本作は、1995年に公開された作品だが、30年という月日を経た今でも、一切古さを感じさせないどころか、ずっと瑞々しい。そして、本作で博子ともう一人の樹を演じた中山の凛とした美しさとチャーミングな姿に、私たちの心は何度も吸い寄せられる。そんな名作の公開30周年を記念して、2025年4月に4Kリマスター版として劇場公開された「Love Letter 4Kリマスター」が、日本映画専門チャンネルにて7月27日(日)夜9:00ほかよりテレビ初放送される(※2Kダウンコンバートにて放送)。この機会に改めて、本作での女優、そして一人の女性としての中山美穂の魅力に迫りたい。 ■対極な博子と樹…だが、根底にある“ピュアさ” 言わずと知れた岩井俊二監督の名作映画「Love Letter」。“雪(過去)”に埋もれた恋を描く本作で、中山は2人の女性・博子と樹を一人二役で演じた。物静かでしとやかな性格の博子は亡き恋人を忘れられないでいる。一方の樹は、感情表現が豊かで明るく活発だが、自分自身にも相手の気持ちにも鈍感…という対極な2人。そして、その2人を引き合わせるきっかけになるのが、博子の亡き婚約者であり、樹の中学時代の同級生でもあった藤井樹(柏原崇)というわけだ。 中山は、この正反対の女性を演じるにあたり、ヘアスタイルやメークなど見た目に大きな差はないのに、話し方や声音、視線、仕草、佇まいだけで全く別の人物に見せている。あまりの違いに、あれ…似ているけど、違う俳優が演じているんだよね…?と思わされてしまうほど、博子と樹を繊細に演じ分け、それぞれの人生を歩んでいる。だが、別人であるはずなのに、そのどちらも根本にある“ピュアさ”がにじみ出ている。それこそがまさに中山美穂という女性のナチュラルな美しさや、彼女が纏(まと)う愛らしさであり、私たちはどうしようもなく引かれてしまうのだ。 ■中山美穂が纏う儚い透明感と余白の演技力 博子から亡き婚約者・藤井樹への“Love Letter”が、結果的に青年・藤井樹から少女時代の樹(酒井美紀)への“Love Letter”に変わっていく展開に、さまざまな感情が混ざり合う。それは儚くて、痛くて、甘酸っぱくて、優しい。そして岩井監督が描く、このような繊細で詩的な世界観を体現できたのは、女優・中山美穂が持つ透明感と、私たち視聴者が寄り添える余白を与えてくれる演技力が融合したからに他ならない。 博子はあまり感情を表に出さないタイプだが、樹の登山仲間で博子に好意を寄せる秋葉茂(豊川悦司)が勝手に小樽の“藤井樹”に手紙を送り付けて正体を暴き、土足で踏み込まれたと感じたときの静かな怒りや、恋人の樹が自分に一目惚れした理由に勘付き、涙が堪えられないシーンでは、どちらも大きな声を出すわけでも、セリフが多いわけでもない。だが、その沈黙の間に見せる一つひとつの表情、仕草で、私たちにその感情を想像させる余白を与える。だからこそ、派手ではない静かな芝居なのに、見るものの心に響き、彼女の感情が余韻として深く染み込んでくるのだ。 ■雪に溶け込む、中山美穂の美しさに心を奪われる “生”の今の視点から手紙を通して、“死”と過去に触れている本作だが、亡き恋人と同姓同名で、自分と瓜二つの女性がいるという、ある種ファンタジーのような設定を、リアリティーを持った日常として描いている。一方で、雪景色や柔らかな日の光、静かに流れていく時間などの映像表現も相まって、どこか浮世離れした世界観を感じさせる。その繊細で絶妙なバランスで成り立っているこの作品世界の軸を担っているのは、間違いなく中山美穂だろう。 ナチュラルなかわいらしさはもちろんのこと、彼女自身からあふれ出る透明感が、この「Love Letter」の世界をより澄み切った白さへと染め上げる。雪に溶け込む、彼女の美しさがそれを証明している。その姿に、私たちはいつ、何度でも心を奪われてしまうのだ。 構成・文=戸塚安友奈